Calling

 

 

 

それは突然来た。

見張りに放ってあるどんな存在より先に、感知することができた。

(…おまえだな?)

あれから随分経った気がする。

だがそんな筈はないのだ。その予感にとらわれてからの時間など、瞬くほどのものだ。

(…そうか)

オレは待っていたのか。自分では気付きもしなかった。

あの石にふれてからずっと、待ち続けていたことに。

(やっと来たのか)

ああ、感じる。それはまだ小さく力も足りないが、今にオレの元にある誰よりも強くなれる。

呪布の下で、口元が笑みに綻ぶのがわかった。

「…いかがされましたか?」

「――何が?」

不興を買うことを恐れる風もなく、珍しく立ち入った物言いをする副官。

一瞥で黙らせたが、この男にそうさせるほど常にない様子をしていただろうか。そうかもしれない。

あの力がここへ来る。

待つまでもなく必ずここへ辿り着くだろう。それでも呼びかけずにはいられまい。

おまえはあの謎の答えを知っているのだろう?

(さあ、早く来い)

それが何なのか知らず、それでもどうしても欲しかった。

そうして手に入れた石が、腹の中で蠢いたような気がした。片割れを呼ぶように。

 

 

 

 

ずっと探していた。

何の前触れもなく今になって突然現れるなんて、相変わらずこっちのことなど考えてもいないのだろう。

それにしても懐かしかった。

     共に在った日々は思い出してみれば僅かなもので、見失ってからの年月とてさほどのものでもなかろうに。

あの日、光と共に見失った銀色の獣。

今は見ることができなくてもたやすくその姿を思い描ける。

あの冷たい面差しは大して変わっていないのだろう。

「…勿論、来てくれるだろう?」

呼べばおそらく拒むまい。それだけの理由はある。

勿論、ただ声をかけるだけなどということはない。

用意は周到に。おまえから学んだことは多い。

(早く会いたいものだ…)

ずいぶんと辛抱強くなったという自覚はある。

それでも、オレを見たおまえがどんな顔をするか…考えただけで楽しくて胸が踊るような気がする…。

 

 

 

 

突然名前を呼ばれたような気がした。

だが違う、あの女ではない。もしそうなら間違えるものか。

それではあれは何だろう?

「ああ――そうか」

                                                                                くっくっと嗤うと、空腹によって齎される鈍い痛みが、緩慢に身を刺した。それはもはや馴染みのものとなっている。

あまり時間は残っていないのかもしれない。

                       今この時になって例の子供が現れた、というのもただの偶然ではあるまい。

それにしても、と目を細めた。

                                                                             手の内にとらえたその戦闘は見られたものではない。どうやら目覚めたばかりらしい力はまだまだ小さなものだ。

                   自分が何者で、どんなことができるのかがまるで分かっていないらしい。

                                                                      その小さき力とて、使い方さえ誤らなければ今の相手など取るに足らないものだというのに、と妙に苛立つ。

…ふいに思い当たった。同時に笑いがこみ上げてくる。

          そうだ、できないはずはない。こんなにも近く感知できるのだから。

あれはオレの息子ではないか。

                                                       呼びかけるにはひと押しするだけで良かった。小さき力を支配下に捕えるのは容易いことだった。

「…こんな相手にてこずってもらっては困るな…」

                          驚きと戸惑いを感じる。それは間もなく怒りに変わるのだろう。それも一興だ。

「力の使い方を教えてやるよ」

                 やがて目の前に現れるはずの、こいつはどんな姿をしているのだろう。

オレに似ているのだろうか、それともあの女に?

待つ楽しみが、もうひとつ増えたようだ。

 

 

 

 

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