真夜中の窓 

 

 

真夜中の窓から眺める丸い月。
あの夜と同じ知らぬ顔で空に張り付いている真円が、以前はどのように見えていたかが今のセラスには思い出せない。
ただ確かに、今とは違う姿に見えていたような気がする。
以前とは違う身体がそう思わせているのかもしれない、と窓に凭れたまま考える。
そうなって久しいという程でもないというのに、そうなる前のことがひどく朧げに感じられることが多い。近頃は特にそうだった。それに気付くたびに思わず自身を抱き締めてしまい、却って脈打つことのない冷たい身体を思い知らされた。
そして自分に言い聞かせようとしてみる。
今は、違うのだ。違う生き物になったのだ。自ら望んで。
…しかしそれは生き物と呼べるのだろうか?
日の光の中を歩いていた時は知らなかった。月が領する夜の世界のことは。
そこに棲む生き物のことなど、尚更。
今、以前の感覚が遠くなっていくことよりもセラスを怯えさせるもの。
少しずつ、しかし確実にその身を侵食していくもの。
あの渇き、赤い渇きが何よりも恐ろしかった。あの時光としてその刹那に消える代わりに選んだ、永遠の闇。
その永遠が、代価を払えと追ってくる…。

頭の中で呼ぶ声がした。
弾かれたようにその場に直り、ついさっきまでの物思いを忘れてセラスは耳を澄ませた。低い男の声は短い命令を終えると唐突に途切れた。
それが合図だったかのように走り出していた。
この夜は平穏の内に明けない。それでも引き金を引いている時だけは忘れることができる。そう思い込もうとしていることに気付かぬまま、セラスはもう一度だけ窓の外に視線を投げた。

真夜中の窓から眺める丸い月。
あの夜と同じ知らぬ顔で空に張り付いている真円が、以前はどのように見えていたかが今のセラスには思い出せない。



 

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